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日立の德永俊昭社長、環境課題の解決とともに人々の幸福や経済成長を実現する取り組みを紹介

「Hitachi Social Innovation Forum 2025 JAPAN, OSAKA」基調講演レポート

 株式会社日立製作所(以下、日立)は17日、日立グループ最大規模のプライベートイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2025 JAPAN, OSAKA」を、大阪・梅田のヒルトン大阪で開催した。今年で27回目となり、同社が出展している大阪・関西万博の開催期間中にあわせて、初めて大阪での開催となった。

 日立の德永俊昭社長兼CEOによる基調講演をはじめ、各種セッションの実施やソリューション展示を行ったほか、大阪・関西万博の「未来の都市」において、KDDIと共同展示をしている「Society 5.0と未来の都市」に関連した展示やセッションも開催した。

 午後1時から行われた基調講演で、日立の德永社長兼CEOは、「日立が描く『ハーモナイズドソサエティ』~環境・幸福・経済成長が調和する未来~」をテーマに、Lumadaを活用した最新事例などを通じて、同社が取り組む「ハーモナイズドソサエティ」について説明。環境課題の解決とともに、人々の幸福や経済成長を実現するさまざまな取り組みを紹介。さらに、日立の創業115年の歴史についても触れた。

日立 代表執行役 執行役社長兼CEOの德永俊昭氏

 基調講演の冒頭に、德永社長兼CEOは、数学者であり、哲学者でもある古代ギリシャのピタゴラスが残した「美徳とは調和である(Virtue is Harmony)」という言葉を持ち出し、「人類は、2500年も前から、調和を理想の状態ととらえ、追い求めてきた。日立も調和する社会を目指している」とした。

美徳とは調和である

 ここで德永社長兼CEOは、世界のあらゆる場所で分断が生じている一方で、日本は、「和」を尊び、他者との「共感」を重視しながら発展してきたこと、「和」が日立の創業の精神のひとつとして受け継いできた大切な価値観でもあることに言及。「私は、分断が深刻化しているいまこそ、こうした日本の強みを生かすチャンスだと考えている」と述べた。

 その上で、「いま、日立が目指しているのは『ハーモナイズドソサエティ』である」と定義した。

 ハーモナイズドソサエティとは、環境、幸福、経済成長の関係が、トレードオフではなく、すべてが調和する社会を指し、経済成長画を、環境や幸福の足かせにはせず、地球環境の維持と人々の幸せの追求を通して、企業が成長していくことになるという。

 「環境や幸福という未財務的価値の追求が、企業の成長を示す財務的価値につながる。この世のすべてを数字で表現しようとしたピタゴラスと同じ挑戦を、日立は続けていく」と述べた。

 日立の歴史についてもビデオを通じて振り返った。

 1910年に鉱山で使用するための5馬力モーターの開発で創業した日立は、自主技術と製品の開発を通じて成長を遂げてきた。第2次世界大戦によって日立も大きな被害を受けたが、社員のアイデアで鍋や釜、電子コンロ、ラジオを製品化。さらに鉄道の修理にもいち早く取り掛かり、日本の復興を支えたという。

 「当時は、少しでも早く、日本人の生活を元通りにしたいという思いで行動をしていた」という。さらに、高度経済成長期には電話の自動交換機の開発に参加し、電話の急速な普及に貢献した事例を紹介。「社会の課題を解決するために、他社とも協力する姿勢はこのころから変わらない」と説明した。また、現在においては、人とロボットが協調して暮らす未来に向けた実験を行っていることを紹介した。

 このビデオは1人の少年が登場し、歴史をたどるナビゲーター役を務めたが、最後に少年が、「大人の僕。日立の人がつないできた思いは、ちゃんと君にまで届いている」と呼びかけてビデオが終了した。これを受けて、德永社長兼CEOは、登場した少年について、「少しだけ、私の面影があると思っていた。そういうことだったのか」と語り、ビデオとの連続性を種明かししてみせ、会場を沸かせた。

少年のナビゲートにより歴史をたどった

 德永社長兼CEOは、日立の創業地である茨城県日立市の出身であり、「そこで働く人々の『社会に貢献する』という信念を見て育った。その思いはグローバルの28万人の日立グループ社員に受け継がれ、社会課題の解決を目指してさまざまな製品やサービスを生み出し続けている」と語った。

 日立は、100年以上に渡って磨き上げてきた「プロダクト」、制御および運用技術である「OT」、情報技術である「IT」を組み合わせ、社会課題を解決する「社会イノベーション事業」に注力していることを強調。さらに、優れた自主技術や製品の開発を通じて、社会に貢献するという企業理念が、創業以来、115年に渡って、一度も変化していないこと、次の時代をInspireするために、常に「What's next?」と、問い続けてきた企業姿勢を示した。

 一方で、変化をもたらす技術として取り上げたのが生成AIだ。

 生成AIは、世の中を大きく変え、さらに進化のスピードを加速し、2032年には1兆ドルの市場規模になると予測される一方で、データセンターの増加による環境負荷の増大、倫理問題の顕在化といった課題があることを指摘。

 「新たなテクノロジーによってビジネスは成長するが、その裏側で環境への配慮が後回しになっているかもしれない。だが、環境への配慮により、コストや開発スピードが制約され、ビジネスの成長が鈍化するといったジレンマもある。経営者が取り組むべき課題は、時代に応じて変化する」と語り、「Hitachi Social Innovation Forumでも、社会のトレンドをとらえながら、DXやGX、ウェルビーイングといったように、目指す社会を提案してきた。その日立が目指す社会の新たな提案が、ハーモナイズドソサエティの実現ということになる」と述べた。

ハーモナイズドソサエティの実現に向けた3つの鍵

 德永社長兼CEOは、ハーモナイズドソサエティの実現に向けた3つの鍵を示した。

 ひとつめは「進化したLumada」である。

 Lumadaの進化の原動力になるのは、現場に蓄積されてきた膨大な暗黙知やデータによる「ドメインナレッジ」と、それを効率的に現場で活用するための「AI」の融合だ。

 「進化したLumadaは、AIがドメインナレッジを学習し、お客さまの資産効率の向上や運用の高度化に貢献することができる」とする。

ドメインナレッジとAIの融合

 ここで挙げたのがHMAX(Hyper Mobility Asset Expert)である。鉄道分野において、車両や信号、インフラ管理を最適化するためにAIを活用。NVIDIAのAIテクノロジーを搭載したオールインワンのデジタルアセットマネジメントプラットフォームとして提供している。2024年9月に提供を開始し、すでに、欧州の鉄道分野での導入実績がある。

 「HMAXでは、保守にかかるコストや、車両が消費するエネルギーの低減、列車遅延の削減などを実現する。経済だけでなく、環境や幸福における価値も提供することができる」と位置づけた。

 HMAXは、今後、エネルギー業界向けのHMAX for Energyや、製造業界向けのHMAX for Industryの展開も進め、将来的には、街全体を管理できるようになるという。

鉄道車両のメンテナンス現場を視察する德永社長兼CEO
鉄道分野におけるHMAXによる管理画面の様子
HMAX for EnergyとHMAX for Industry

 2つめが、「真のOne Hitachi」である。

 德永社長兼CEOは、「日立はIT、OT、プロダクトを持つ強みを生かし、お客さまの課題を解決してきた。また、10数年に渡る構造改革と、その後の成長戦略で個々の事業が力強く伸長した。だが、日立グループが本当の力を発揮するのはこれからである」と前置きし、「いままで以上に日立グループがひとつになり、新しい価値を生み出していく姿を、私は『真のOne Hitachi』と呼んでいる。これにより、お客さまの想像を超える新しい価値を提供できる。日立グループにしか解決できないような複雑な課題に対して、ソリューションを提示できる」と自信をみせた。

日立グループがひとつになり、新しい価値を生み出していく

 ここでは、日立が注目している領域として、EVバッテリーの事例をあげた。

 EVバッテリーの「製造、利用、再利用」の循環を実現し、蓄電池としてのポテンシャルを高めるため、日立グループのノウハウを結集。環境にやさしく、利便性が高く、そしてエネルギー効率に優れた移動手段の提供によって、ハーモナイズドソサエティを実現できるという。

EVバッテリーの循環

 3つめの鍵が、「ソサエティとの協創」である。ここでの主人公は、企業や自治体ではなく、「社会を形づくる人々」とし、住民の声が原動力となり、テクノロジーを使いながら、目指すべきソサエティの輪郭を明確にしていく活動に取り組むという。

ソサエティとの協創

 具体的には、2040年に全人口の約35%が65歳以上になるという日本の高齢化社会の到来を見据え、公共サービスやインフラの維持が困難になったり、地域の活力が喪失したり、住民同士の交流が減少するといった課題への対応を示した。

 すでに、同社の創業の地である茨城県日立市と、地方創生の成功モデルを探るプロジェクトを開始。「これは、日立の115年に渡る課題解決の集大成であり、『第二の創業』といえる挑戦である」と位置づけ、「プロジェクトで得られた経験を糧に、日本国内のさまざまな都市に、この取り組みを広げていく」とも述べた。

“第二の創業”

 最後に、德永社長兼CEOは、「社会情勢は、これまで経験したことのないスピードで変化し、世界中で分断が生じている。しかし、和を重んじる日本だからこそ、ハーモナイズドソサエティという未来の在り方を、世界に向けて発信していくべきである。業界の壁を越え、知恵と技術を結集して、ハーモナイズドソサエティの実現へ向けた歩みを始めたい」とし、「時代も社会も変わり続けるからこそ、立ち止まらずにWhat's next?と問い続ける楽しさを世界中に届けていきたい」と語り、基調講演を締めくくった。

What's next?